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ポエトリーラップ 生きてく/MC Masa


生きてく/MC Masaはラップのリズムに乗りながらも聞きやすい速さで伝えます。

ポエトリーラップ 生きてく/MC Masaのご紹介


「困ったねー まだ生きれる」
この困ったなーは照れ隠し。
愛された喜びですね。誰かの愛を感じたとき
生きていく、と勇気をもらえます。



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スポークンワード用小話 母を辞めた女



 成美は男を消えた子供代わりに抱く。幼馴染の亘を好きみたいだが自分でもよくわからない。ある日彼が女と歩くのを見て、心に大きな穴があく。それで、部屋へ訪ねた彼と話して、あ、だけで彼の思いは伝わり、満たされた。お腹から消えた胎児を忘れさせる愛に巡りあって、母だという思いも消えた。


 私が男を抱くときは、いつも潮の匂いがする。隣で眠る男を愛しているわけでもない、一夜のむつごと。
 空っぽの子宮が欲するままに母となり、私は男を抱く。
 満たされた翌日は気分も好い。休日だし、部屋でゆっくりしたい。冷蔵庫におかずとなるようなものがなく、たまには外食でもしようと思う。
「成美(ナルミ)さーん。いますかー」
 間のびした声は、亘(ワタル)。ひとつ下の幼馴染で、犬のようにまとわりつくけれど、嫌いではない。
「なにか用事。まだ朝よ」
 玄関のドアを開けて困った顔を作るが、半分笑顔なのも自分でわかる。彼に会うと頬の筋肉がどうしても緩むのだ。
「いやさ。近くに来たから、成人式のお礼をしたくてな」
 彼は男お多福顔をなおさら崩した笑顔で言う。
「別にいいわよ。ちょっと出ようか」
 男を部屋へ簡単に迎えることはできない。一年前から彼が訪ねてきたら近くの公園で、少しばかり話すことにしている。鍵とハンドバッグを手に外へでた。彼が会いにくる建前の理由はどうでも良いのだ。
 私は、婚約手前で恋人と別れた。出きちゃった婚、というものだが、夫予定者にほかで産ませた子供がいて、その女は養育費だとかを私にも要求する。それは仕方ないけれど、まだ子供の父親と肉体関係も続いているように思われた。私にも意地があり、きっぱり別れるならと直接その三十路過ぎの女と話もしたし、これで婚約解消したわけではない。
 私の赤ちゃんは、三ヶ月で泡となって消えた。泡状奇胎というもので、血の塊となり掻き出されたのだ。義母になるはずの人も妊娠してないならと、もろに結婚に反対みたいな顔をする。ちょっとした財産もちで変なプライドもあるのは気づいていた。頼まれても母と呼ぶのは嫌だし、私の居場所ではないと、別れたのだ。
 胞状奇胎の治療を終えたのは、もう一年も前のことで、近いうちに妊娠しても良いと医者から許可も出るはず。
 しかし、いつも子宮はなにかを求めていた。そのため、私は赤ちゃんの代わりに男を抱く。
 私も病院へ通う間に同じ境遇の女たちと会い、旦那や家族など支えてくれる存在を見てきた。赤ちゃんの父だった男と別れ、家族にも出来ちゃった婚のときから、へんに意地を張り、自分のことは心配させないと決めていた。だから、表向きに、大丈夫よ、と強がっている。
 事情を知る亘は、たまに来て元気付ける。いまも理由をつけて訪ねて来ていた。
(わかっているけどさ−)
 心でため息を吐く。好意を持っているのは気づいているが、深く付き合う思いもない。
「一昨日も集まったんだ」
 ベンチに座り、亘が話すのは、地区の若者でしているボーリングのこと。妊娠前は私も参加して、かなり良い成績を上げた。
「ご無沙汰してるし。なんか疲れるのよね」
 皆と一緒に玉を転がすのも飽きている。
「顔を見せるだけでもいいよ。来月、日にちは成美さんに合わせると言ってた」
「君はまわし者か」
 皆に頼まれて、誘いに来たとしたら、不満だ。彼も少し戸惑う。
「そうじゃないよ。ただな」
 なにか言いよどむ。
「なに」
 今度は理解のある優しい口調で訊く。お人よしでこんな役目も負わされるのは、彼の良いところだ。私としてもお喋りが快く感じてもいる。
「成美さんも自分を大切にして欲しいのだよ」
 真面目に言う。はっきりしないのが欠点だが、彼に言わせる壺を心得ている。
「ちゃんとしなさい。なにがなの」
 叱るようだけれど、仕事ではちゃんとする、というのが口癖だと本人も言っていた。
「うん。なんというか。男の人と遊ぶのは よしたほうが」
「関係ないわよ。あんたに」
 最後まで聞かない。無神経で言葉も選ばない男なんだ。狭い町だから確かに噂もされているだろうし、自業自得だが、他人に言われたくない。
「でも。ほら、成美さんはもっと」
「しつこいわね」
 立ち上がる。食事は一緒にしようと思ったけれど、止めた。
「なんで怒るの。ぼく、悪いこと言ったか」
 この鈍感男、とは言えず、視線を投げつけて後ろにする。謝るようなことを喋るが、振り向いてあげない。目が潤んできて、顔が強張る。私は泣いているのか、なぜかしらないが顔を見せたくない。子宮の空洞に充満する異物を感じる。
(ばかなんだから)
 心で呟くと、異物は微かに熱を帯びた。

      ☆

 妊娠しても良いと許可が出た。泡状奇胎で発生する癌みたいな細胞がまったくないと判断されたわけだ。ただ相手はいないし、今日も行きずりの快楽を求める。子宮の入口を広げられた痛さは、消えた胎児への思いと一緒にいまも私の中に疼く。この手からするりと逃げて天使になった子供をひと時でも忘れたい。
 だから私は男を抱く。
「いまからなの」
 車の助手席で私はつまらないと口を尖らせた。ホテルへ行く金をいまから引き出すと、ショッピングセンターの駐車場に停めて、彼が建物の中へ入る。男にも拘りがあるようだし、焦らすのも手口なんだろう。
「これは置いといていいから」
 亘の声が運転席側で聞こえた。見ると、誰かと一緒に車から降りたところだ。派手なスカートにブラウスの女が親しそうに、かわいいもん、と甘ったるい声。知り合いだろう、同じ地区なら私も顔は知っているはずだが、見覚えもない。
(なにを親しそうに、いちゃいちゃと)
 女が気軽に亘の肩をたたいてはしゃぐのは、心を騒がせる。恋人はいるはずがないし、見つけたのか。昨日も夕方、苺を持ってきたが、女の友達ができた素振りもなかった。
 二人とすれ違いで今日の相手が戻ってきた。
「お待たせ。仲のいいカップルだぜ」
「私たちも、よ」
 そのように思い込む。顔の整ったいい男だけれど、なにやら色あせてみえだした。車が走りだす、後ろを振り向いたが、亘はいない、当たり前か、苦笑した。
 ホテルでの男は紳士的野獣になる。なぜか亘と一緒にいた女が頭に浮かぶ。まだ幼い顔をしていた。未熟な腰をくねらせ、眉間に眉を寄せるのだろうか。相手は亘だろうか。覚めた心が炎を消して行く。
 亘を想像してみた。女を愛するとき、あの男 お多福顔はどうなるんだろう。 目を閉じる。少なくとも亘の声は心地好い。
泡となって消えた子供を忘れるひと時が訪れる。そう、相手はだれでもいい、この寂寥感を埋めてくれるなら。

      ☆

 感じないなら、しないほうがいい。昨日がそうだった。かといって、毎日まぐあうわけにも行かない。しかし、たそがれる街角、大きな穴が心に開いている。なにかが抜け落ちて、男を抱く気にもなれない。こんなとき話相手は亘だ。携帯電話を取り彼の番号を押したが、すぐに止める。
(原因はあのお多福顔だった)
 心が嘆く。また鈍感男からかけられても困るし、電源も切りショルダーバッグに収める。
(自分ではいい男と思っているのかしら。女心もわからない、ばか男が)
 それならなぜいまも思いだしている、と言われても答えられない。
(亘にはいいところもあるんだから。私は似合わないのよ)
 どこからか聞こえた。それはも一人の私かもしれない。女はいつも心の奥に別の自分を住まわせている。もう一人の私は知っているのかもしれない、私の中で亘の存在がどれほど大きいか。いまごろから気づいた。でも遅かった、いまさらとの思いもある。彼に甘えていた部分もあったのだろう。
(若い子だったから、騙されないように)
 歓迎してあげる、と開き直った。どこかで夕食を食べて帰ろう。

     ☆

 すっかり暗くなった。明かりのない自分の部屋へ一歩一歩階段をのぼる。
「遅いよー」
 亘だ。玄関の前に立っている。
「なんで。なぜ。電話すれば」
 前に駆け寄り言う。嬉しい気もするが表情も感情も思いについて行けない。
「電話しただろ。慌ててきたんだが。取らないから」
「あ。切ってた」
 笑ってごまかす。なるほど、彼はベルトもしないズボンに、シャツのボタンをかけ違えている。中へ入ってから、と招き入れた。
 ちゃぶ台を前に、なにがあったんだ、と訊く彼に答えは準備されてない。知りたいのがひとつだけ。
「彼女ができたんだ。紹介してよ」
「いないよ。ぼくは成美さんだけと言ったよ、前に」
「いつよ。聞いてないわ」
「小学生のとき」
 思いだした。私が中学校にあがるとき、愛しているとか喋っていた。
「時効だー。そんなの。ちゃんとして」
 なぜか心が華やぐ。
「恥ずかしいよ。なんだ。あ。いや。なんといえば」
 あ、だけで十分だ。
「いいんだから。最後まで言わなくても。ねぇ。信じていいの、いまも」
 昨日の女がだれであれ、ここに亘は居るのだ。埋まる、子宮が得たいの知れないので満たされて、心地好い暖さが疼いてくる。
「そうだ飯は食べたか。腹が減って」
 彼は待っていたんだずっと。私が食べているときも、ここで待っていたんだ。なにか作るから、とキッチンに立った。食事をさせて、私もついでに味わって欲しい。
 彼の愛し方は不器用だ。しかし、心の芯までとろけさせる。
 どこかで赤ん坊の泣き声がしたけれど、遠ざかって行く。さよなら私の子供、今日から母を止めることができる。
 女の喜びをかみしめて、私は男に抱かれた。

      了
投稿日 2008年 03月23日 14時57分


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